株式市場それ自体を、
なにか人間のようなものとして
考えないようにするのはむずかしい。
それは短気から有頂天へ変えてしまうような
空気があるし、急な反応をしたかと思えば、
機嫌が直ったりといった具合だ。
しかし、心理学は金融市場を理解するのに
本当に役立つのだろうか?
実践的な株の銘柄選びの戦略を
提供してくれているだろうか?
行動ファイナンス理論家は
それが可能だと主張している。
行動ファイナンスの理念と発見
この分野では、
一般的なファイナンス理論がいうほど
人びとは合理的ではないと主張している。
感情やバイアスが株価をどのように
動かすかに興味がある投資家にとって、
行動ファイナンスは興味深い説明を提供している。
心理学が株式市場の動きを促すという考え方は、
市場が効率的であるという確立された理論を無視している。
効率的市場仮説の支持者は、
企業の価値に関する新しい情報は、
アービトラージのプロセスを通じて
市場によって迅速に価格に反映されると考えている。
インターネットのバブルと
それに続くクラッシュを経験した人にとって、
効率的市場仮説は飲み込むのがとてもむずかしい。
ファイナンス行動主義者は
アノマリーというよりもむしろ、
不合理な行動はよくあることだと説明している。
事実、研究者たちはとても簡単な実験を用いて
市場における行動を再現している。
利益と損失の重要性
ここに、とある実験がある:
確実な5000円を取るか、コイン投げをして
10,000円を勝ち取るか何も得られないかを選べというものだ。
人間はこの状況だと、
確実なものをポケットに入れる可能性が高い。
逆に、確実に5000円を失うか、コイン投げをして
10,000円を失うか何も失わないかを選べという実験をする。
ここではコイン投げを選ぶだろう。
どちらの実験でもコインの裏表がでる可能性は同じだ。
コイン投げがより大きな損失に
つながる可能性があるにもかかわらず、
それでも人間は損失からみずからを救うために
コイン投げを選ぶのだ。
人間はより大きな利益の可能性よりも、
損失を取り戻す可能性を重要視する傾向がある。
損失回避におけるこの優先順位は、
もちろん投資家にも当てはまる。
2000年初めに124ドルから0.47ドルまで株価が急落した、
当時のノーテルネットワークスの株主を考えれば一目瞭然だ。
どんなに価格が下がろうと、
投資家は価格が最終的には戻ってくると信じ、
しばしば株式の保有を続行する。(いわゆる塩漬け)
群れと自己
群衆本能は、人々がなぜ他人を模倣する
傾向にあるのかを説明している。
マーケットが上昇したり下降したりしているとき、
投資家は他の人がより多くの情報を持っているという
不安の支配下に置かれてしまう。
結果として、他の人がやっていることを
模倣する強い衝動に駆られる。
(直近の例の最たるものは暗号通貨)
行動ファイナンスはまた、投資家が
小さなサンプルのデータや
単一のソースから得られた判断に
あまりにも多くの価値を置く傾向があることを発見した。
たとえば、投資家は勝ち銘柄を選び抜くアナリストは
ラッキーではなくスキルによるもとみなす。
一方で、投資家の信念は簡単には揺らがない。
1990年代後半をとおして投資家を支配していた信念は、
市場の急落は買い場だ、というものだった。
実際に、この見方はいまでも浸透している。
ともすると投資家は
みずからの判断について自信過剰になり、
「より明白な平均」よりも
「お告げ」のようなものに飛びついてしまう傾向があるのだ。
行動ファイナンスはどれほど実用的なのか
ぼくたちはこれらの研究が、
投資家が市場を打ち負かすのに
役立つのかどうかを自分自身にたずねることができる。
結局のところ、ぼくたちの合理的な弱点が
賢い投資家に大きな収益機会を提供する。
しかし実際には、
バリュー投資家が行動ファイナンスの原則を用いて
どの割安銘柄が銀行口座にリターンをもたらすかを
精査しているということはほとんどない。
理論はおおくの合理的な弱点を指摘しているが、
躁鬱マーケットからキャッシュを
叩き出す方法はほとんど提供していない。
1990年代後半は市場がバブルの熱に侵されていたことが、
「投機バブル 根拠なき熱狂」の著者である
ロバート・シラー氏によって示された。
しかし彼はそれがいつ弾けるのかまでは
言うことができなかった。
同様に、今日の行動ファイナンス主義者たちは
マーケットがいつそこを打つのかを教えることまではできない。
まとめ
行動ファイナンス主義者はまだ、
マーケットが過去に何をしたのかを説明するだけでなく、
実際に未来を予測する一貫したモデルを提示できていない。
ここでの大きな教訓というのは、
この理論はどうすればマーケットを打ち負かせるかを
ぼくたちに説明しているわけではないということだ。
それよりはむしろ、
市場価格やファンダメンタル価値を長いあいだ
分散させるのは心理学であると教えてくれている。
行動ファイナンスは
投資のミラクルをもたらすわけではないが、
投資家がみずからの行動を監視する方法を提供し、
ぼくたちの富を減らすというミスを避けるのに役立っている。