widemoat




ぼくはバフェットの投資戦略に関する研究に
没頭していた時期がある。

ウォーレン・バフェットの投資における不可欠な要素は、
「堀(wide moat)」というものに注目することだ。

建築用語における堀は、城や町を水で囲むことで
侵略者からの防御障壁として機能する溝のことだ。

ビジネスにおいては、堀は競争優位性を意味する。

堀のあるビジネスを特定することは、バフェットの戦略の中核をなし、
彼からの経営者へのアドバイスは、堀をより深く広げるための取り組みに集中することだ。

しかしながら、すべての堀が同じに見えるわけではなく、
堀がどれだけ長持ちするかを検証することは困難だ。

競争優位性は次の幅広い分野に分類できる:
規模(スケールメリット)、ブランド、
規制上の優位性、商標や特許といった知的財産、だ。


アルファベットの子会社グーグル(NASDQ:GOOGL)は、
インターネットソフトウェアおよびサービス業界の中で
もっとも支配的で収益性の高い企業の1つとなった。

グーグルにはさまざまなビジネスベンチャーがあるが、
主に2つの主要な広告事業から収益を得ている。

つまり、インターネット検索とターゲティング広告だ。

バフェットと彼の投資パートナーであるバークシャー・ハサウェイ
(NYSE:BRK.A)副会長チャーリー・マンガーが考える堀における、
グーグルの堀の強さや深さについて考えてみよう。

これらの分野を通じてグーグルの優位性の源を研究することで、
同社の支配力の持続可能性について優れた洞察を得ることができる。



模の優位性

規模から発生する競争優位性はふつう、
大規模なレストランや小売チェーンの購買力など、
供給側の利点のことをいう。

需要側でスケールのメリットがあるすると、
一般的にそのメリットは「ネットワーク効果」と呼ばれる。

この点におけるグーグルの優位性はとても大きくサステナブルだ。

サービスがより多くの新規ユーザーを加えていき、
サービスがそのすべてのユーザーにとって価値があるとき、
ネットワーク効果は機能する。

結果はしばしば、グーグルの検索ビジネスのように
業界での勝者総取りのようになりうる。

検索サービスはユーザーによる検索回数が増え、
ウェブサイトがグーグルの検索結果に最適化することで
向上していく。

スケールは、ユーザーの興味に基づいて関連する広告を
配信する広告ネットワークでも機能している。

グーグルが検索を通じてユーザーを知るほど、
ターゲットの設定能力は向上する。

これらはライバルたちが克服するには
とてもむずかしい大きな優位性だ。

インターネット検索におけるグーグルの市場シェアは64%だ。

グーグル市場の3分の2を支配している限り、その堀は深く、広い。

同社のターゲティング広告のリーチはさらに大きく、
米国内の全インターネットユーザーの92%にのぼっている。



ーグルのブランド

グーグルのブランドは確固たるものだ。

会社名そのものが、インターネット検索をするための
一般的に受け入れられている動詞となっている。

しかし、ブランドによって競争優位性があるかどうかは、
消費者がどのサービスを使うかを選ぶうえで、
そのブランドがどのくらい重要なのかによって左右される。

このような観点でいくと、グーグルのブランドが堀に大きく
貢献することは考えにくい。

ユーザーは、結果の精度と信頼性のためにグーグル検索を好む。

ほかのプレイヤーがグーグルのネットワークの優位性を克服し、
より速く正確な結果を提供したら、ユーザーはおそらく移行するだろう。

検索、広告、Android、マップやGmailなどの
グーグルのほかのソフトウェア事業には、
強力なブランド認識と忠誠があり、
どちらも会社の堀に貢献している。

しかしこれらの貢献の耐久性はさほど強くないといえる。



制による競争優位性

規制によって得られた競争上の優位性はふつう、
競合他社の攻撃を阻止する政府の活動に由来するものだ。

グーグルのケースでいえば、検索とAndroid OSにおける
同社の市場シェアはとても大きく、規制はその強力な収益性を維持する
会社の能力にとって潜在的な脅威になる。

米国やとくに欧州の規制当局は、反競争的な行為について
グーグルの事業活動を監視している。

しかし規制当局が実際に不当な独占に近いと宣言していることが、
グーグルの堀の強さをなにより証明しているといえるのかもしれない。



的財産権

グーグルの堀に貢献する知的財産は、評価することが難しい。

知的財産から得られるメリットは、多くの場合、
医薬品製剤などの特許取得済みの技術を意味する。

グーグルはたくさんの特許をもっているが、
これらの特許が必ずしも競合他社を寄せつけないというわけではない。

さらにグーグルは研究開発(R&D)に多額の投資を行い、
エリートエンジニアを雇い、その知的能力を
挑戦的な課題に注ぎ込んでいる。

最高の人材を雇う能力は競争優位性ではあるが、
それは知的財産ではなくグーグルの規模による産物だ。

結局のところ、グーグルのコアは検索アルゴリズムであり、
検索の環境における変化に応じて頻繁に調整されている。

このアルゴリズムや、もっとも速く広範囲な検索を提供できる能力は、
グーグルが現在謳歌している規模の利点に根ざしている。

必ずしも特許や商標によって保護されているわけではないが、
グーグルの製品の基盤となる蓄積された知識や
コンピュータコードは複製がむずかしいため、
同社の堀の一部とみなされなければならない。



経済的な堀における耐久性を評価するときの
バフェットとマンガーの重要なテストは、
資金潤沢な競合他社がそのビジネスを再現できるかどうかということだ。

この基準によって、グーグルの堀は広く深くなっている。

潤沢な資金のある競合他社は、グーグルの城を襲うことに成功していない。

とくに検索ビジネスにおいてはそうだ。

同社のもっとも大きな脅威は、インターネットユーザーの行動に
大きな変化がおこった時にもたらされるだろう。

たとえば、ソーシャル・ネットワークがもっと一般的になり、
インターネット検索の有意性を抑えるようなことがあれば、
同社の実力が試されることになるだろう。

グーグルは機敏でいつづけ、その優位性を維持し拡大するために
環境の変化に備えなければならないだろう。